モロッコで高額な絨毯を買わされた体験記
スペインのアルヘシラスからフェリーで1時間くらいで来れて、日帰りも可能なモロッコのタンジェ。
「そんなに手軽に行けるんなら行ってみよう」という気軽な気分で来たのが、そもそもの間違いの元だったのかもしれないな、と今にしてみると思います。
そのときは一ヶ月の日程のうちのちょうど中間地点ということで疲れも溜まってしまってましたし、初めての海外旅行・初めての一人旅・しかも予想に反して英語がほとんど通じないスペイン、といったことからくるストレスも手伝ってか、おなかを壊してしまっていました。
だから2〜3日マトモな食事を摂っていなかったし、寝不足にもなってしまっていたのですが、そんなヨタヨタした状態でタンジェの港に降りたったわけです。
で、港の出口がわからずにウロウロしていると、一人の男が近づいてきて「こっちだ」といいながら出口まで連れていってくれました。
「微妙に怪しい気はするけど、単なる親切な人なのかな」などと思いつつ後についていくと無事に港を出ることができたのですが、
そこで男は「自分はガイドだ。君を半日ガイドしてあげよう。ここは危険だからオレと一緒に行動したほうがいいぞ。」などとまくし立ててきました。
手もとに証明書らしきものをチラつかせながら。
でもそれが本物の証明書なのかどうかわかりませんし、普通ならそんな申し出は断るところなのですが、
そう言われてみると街行く人達が本当に怖い人に見えてきましたし、その時は精神的にも身体的にも弱っていたせいか、断る気力が出てきませんでした。
というわけで言われた額を支払い、「自称ガイド」についてタンジェの街をまわることになったのでした。
・偽ガイドのツアーのスタート地点
−−−
最初は彼もタンジェの見どころへあちこち連れていってくれる、普通のガイドでした。
いい写真が撮れる場所にくると、「ここを撮影ポイントだから、写真を撮っておくといい」と教えてくれたり、など。
しかしある路地にさしかかったところで急に真剣な表情になって「このへんは大変危険な所だから離れないようにしろ」と言ってきたのですが、僕はそれを聞いてすっかりビビってしまいました。
なにしろそれまでに迷路のようにウネウネした路地をあっちこっち行ったり来たりしていたので、自分がどこにいるのか分からなくなっていたからです。
それでもはじめのうちは「いざというときはいつでも逃げられるように道を覚えておこう」と思い道順を記憶していたのですが、どの道も風景が似たようなかんじで区別がつきにくかったせいもあって、角を何個も曲がるうちにどんどん記憶があいまいになっていってしまいました。
なので(向こうの思惑どおり?)ビクビク警戒しながらガイドについて歩いていくしかない状況でした。
そうこうしているうちに彼に連れていかれたのは一軒のじゅうたん屋でした。
店に入るとマスターが愛想良く僕らを迎え入れてくれ、いろいろなパフォーマンスを披露しはじめました。
「このじゅうたんはタバコの火を押し付けても消えない。オマエもやってみろ」
とか
「このじゅうたんは見る角度によって色が変わる。おまえもこっちから見てみろ」とか。
要するにセールストークを機関銃のようにまくしたててきたわけです。
そしてそのトークが一通り終わったときに、ふと周りを見渡すと、さっきまでそこにいたはずの自称ガイドが居なくなっていました。
そして、いつまで経っても戻ってくる気配がありません!
「どうするんだ、あの人がいないと港へ帰れないじゃないか!」とちょっとパニックになっていると、そのタイミングを見計らっていたかのようにマスターが
「このじゅうたんを買わないか、買わないか」と詰め寄ってきます。
しかも「オマケにもう一つジュウタンをつけるから」とも言ってきます。
もちろんそんなもの、オマケがついていようが何だろうが買いたくなかったのですが「ここでこれを買わなければ生きて帰れなくなってしまうのでは?」という恐怖がどんどん自分の中に膨らんでくると共に
「Yes」と答える以外に選択肢はない、というくらい精神的に追い詰められてしまいました。
さらには「日本円で6500円でいいから」というマスターの声によって「ここから帰れるんならそれくらいは出そう」という気になってしまい、マネー成立。
必要でもないじゅうたんを買うことになってしまいました。
そしてクレジットカードで支払いを終えたところで、タイミングよく自称ガイドも戻ってきました。
何を話しているのかわかりませんが、マスターもガイドもニコニコ嬉しそうに会話しています。
そして僕も「やっと帰してもらえそうだ!」と別の意味で内心とても嬉しい気持ちでいっぱいでした。
港へ変える途中、ガイドに喫茶店みたいなところに連れられてお茶みたいなものを出されたんですが、
じゅうたん屋で半分パニックになっていたのがおさまりきっていないせいもありましたし、またガイドが席を外してどこかへ行ってしまったので
「このお茶には睡眠薬とかが入ってて、眠っているうちに財布をスラれたりするんじゃないか」とビクビクしながら口をつけてたのを覚えています。
でも結局その店では何もおこらず、ほどなく戻ってきたガイドに連れられて無事に港に着くことができました。
・偽ガイドが教えてくれた撮影ポイント1
・偽ガイドが教えてくれた撮影ポイント2
ところが別れ際のガイドの態度が妙にそっけなくて、港につくと同時に一言もなく、こちらも振り返らず去っていってしまいました。
その不自然さが微妙に気になりながらも、「やっと帰れる!」と胸をなでおろしつつ港に向かったのですが、、、
一難去ってまた一難。
帰りの船の出港までまだ時間があったので用を足しにトイレに入ったところ、また別のオヤジが寄ってきました。
おもむろに彼が言うには
「おまえが持ってるそのジュウタンはすごく高価なものだから、国外に持ち出しする場合には関税をかなり取られるぞ。
・・・でもオレにコーヒー一杯をおごってくれるなら、関税を払わなくてもいいように取り計らってやれるんだけどな」と。
やっと帰れると思っていた矢先の出来事で、しかも予想外の事態に僕は「ど、どういうこと?いったいあなたは誰なんですか?」と、たどたどしい英語で言うのがやっとの状態。
その時彼がニヤリとしつつ言った一言は、なぜか今でも忘れることができません。
「オレか?オレはおまえと同じ、愚か者さ(I'm a stupid guy like you.)」
それを聞くと同時に僕の脳裏には、港で妙にそっけなく去っていったガイドの姿が浮かびました。
「これはほんとにヤバい品物で、彼も僕と必要以上に関わりたくなかったから、あっけなく行ってしまったのだろうか・・・」と。
そう考えると目の前のオヤジの言うことがますます本当のように思えてきたので、結局お金を払うことにしてしまいました。
それでも一応「日本円しか無いんだけど?」と言ってみたのですが、彼は「それでもいいよ」と。
で、まずは1000円札を出してみたのですが、オヤジは「もっと大きいのをくれ」と。
仕方が無いので5000円札を出すと、再び「もっと大きいの」と要求してきたのですが、「もうこれ以上は無い」と言うと「仕方ねぇな」というような様子で、5000円札を懐に収めました。
するとオヤジは、税関にみんなが並んでいるのとは別の、誰も並んでいない入り口に僕をつれていきました。
そこには係員が立っていたのですが、オヤジが彼に一言二言何か告げるとゲートを開けてくれます。
それを見て僕が「通っていいのか」というような表情でオヤジを振り返ると、彼は「Hurry!! Hurry!!」と手振りをまじえて、さっさと行くように僕を促がします。
もう何がなんだかわからないままゲートをくぐり、通路をあるいていくとそこには船の搭乗口が。
そんなこんなで、やっと船に乗り込むことができました。
半日の間に起こったいろんなトラブルですっかり気疲れしてしまったため、帰りの船の中ではグッタリしているしかありませんでした。
それと同時に「自分は何かヤバいものを運んでいるのでは?船の中で荷物チェックが抜き打ちで行われて、関税を払ってないことがバレたらモロッコに強制送還されるのでは?」という恐怖にも襲われていました。
なおその恐怖は、そのあとスペインに滞在してる間消えることはなかったですね。
「なにかの理由でトランクをチェックされて、ジュウタンを運んでることがバレたら、メンドウなことになるのでは・・・」と。
でも結局その後ジュウタンに関しては何もトラブルはありませんでしたし、今から考えるとただの笑い話なんですけどね。
ちなみにジュウタンは、折りたたむとけっこうコンパクトになるものだったので、それをトランクの底に敷いて蓋をしめて、上から「えい!」と押さえながら鍵をかけると、なんとかしまう事ができたので、持ち運びにはさほど苦労しませんでした。
でもオマケのジュウタンまではさすがに入らなかったので、そちらは町のてきとうなゴミ箱に捨ててきてしまいました。
・これがそのジュウタン
−−−
日本に帰ってから、クレジットカードのじゅうたんの請求が来たのですが、そこに書いてある値段は「65,000円」。
なんと"0"がひとつ多いんです!
「やられた!」と思いつつクレジット会社に相談してみたのですが、支払い明細の控えをもらわなかったので、どうすることもできませんでした。
彼らもそうなることがわかっていて、明細をくれなかったのかもしれないですね。
ちなみに聞いた話では、この金額は向こうのサラリーマンの月収の半年分に相当するらしいです。
要するにみんなグルで、僕はよってたかってダマされたというわけなんだと思うのですが、苦い思い出ですね。
と同時にかなり強烈な思い出だったのか、10年以上たった今でもあの時のことはかなり鮮明に思い出せます。
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